大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成7年(う)828号 判決 1996年6月24日

裁判所書記官

名田明弘

本店所在地

東京都江戸川区一之江六丁目四番二号

株式会社大興商会

右代表者代表取締役

鈴木紀元

右の者に対する法人税法違反被告事件について、平成七年二月一三日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官井上隆久出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人佐藤義行、同後藤正幸連名の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官井上隆久名義の答弁書に、それぞれ記載されたとおりである。

一  事実誤認の主張について

論旨は、原判示第一の事実について、被告人株式会社大興商会(以下、「被告会社」という)と平山建設株式会社(以下、「平山建設」という)の共同企業体(以下、「本件企業体」という)が株式会社高橋土木(以下、「高橋土木」という)から請け負った目黒共同ビル建設に伴う掘削、残土処分工事(以下、「本件工事」という)が完成したのは平成元年一月であったのに、昭和六三年一二月中に完成したとして、被告会社の本件工事による売上金四二三七万一七三四円を昭和六三年一二月期の収益であると認定した原判決には事実の誤認があるというのである。

検討するに、関係証拠によると、本件工事は、被告会社の事業年度である昭和六三年一二月期中に完成し、被告会社は、その期中に収益を得たものと認められる。すなわち、被告会社は、同年秋ころ、平山建設との間で本件企業体を結成して高橋土木から請け負った本件工事の施工に当たり、工事代金を掘削した土砂一立方メートル当たりの単価で取り決め、毎日の作業日報により被告会社と平山建設の行ったそれぞれの工事量を確定した上、本件企業体名義で、<1>同年一〇月三一日付けで五四〇〇万円、<2>同年一一月三〇日付けで三六〇〇万円、<3>同年一二月二〇日付けで一八万円、<4>同月三一日付けで八五〇万二〇〇〇円を高橋土木に請求しており、それ以後は請求していない。そして、高橋土木からは、同社が立て替えていた残土捨場代等を控除した上、東榮信用金庫に開設された平山建設(株)目黒共同ビル作業所名義の普通預金口座へ振り込む方法で、同月一二日に四六九九万一〇〇〇円、平成元年一月一三日に二二五〇万〇五五〇円、同年二月一三日に五一九万九九〇〇円が支払われ、被告会社は、自社の取り分として、右口座から昭和六三年一二月二三日に二〇〇〇万円、平成元年二月一六日に二二三七万一七三四円を払い戻している。もっとも、右<4>の請求書には、本件工事に関する請求金額二五〇万二〇〇〇円及び従前の請求書には記載のない残土捨場代補填分六〇〇万円の合計八五〇万二〇〇〇円の請求金額、本件工事の総工事量(三万七八四立方メートル)第一回ないし第三回請求に係る工事の内訳工事数量の記載があるほか、工事の数量の中に「未作業分三〇〇立方メートル」という記載がある。しかしながら、高橋土木の当時の総務部長川﨑俊彦及び平山建設の代表取締役平山恒雄の各原審証言によると、本件工事は昭和六三年一二月中に終了しており、右の請求書に「未作業分三〇〇立方メートル」とあるのは、本件企業体に当初発注した工事のほかに三五〇立方メートル分の追加工事を発注した後、三〇〇立方メートル分の工事は施工しなくてよいことになったため、そのことを示す趣旨で記載されたものであるというのである。また、本件工事が昭和六三年一二月中に終了していたことは、高橋土木が作成保管していた全従業員の出勤簿の記載及び平山建設が作成保管していた本件工事の稼働表の作業内容の記載をみても明らかである。さらに、被告会社の代表取締役鈴木紀元(以下、「鈴木社長」という)は、捜査段階で、被告会社が本件企業体の預金口座から払い戻した前記二〇〇〇万円は昭和六三年一二月期の売上金として、また、同二二三七万一七三四円は同期の売掛金として経理処理すべきであったが、同期の法人税を免れるため翌期である平成元年一二月期の売上金に計上したことを自認し、本件工事の完成が翌期に入ってからであるという弁解は全くしていない。

所論は、川﨑証人の「本件工事は昭和六三年一二月二〇日ころに終了し、その二、三日後に平山建設から請求書を受け取った」との原審証言は信用できないとし、その理由として、同人が同月二〇日から出勤していないこと、高橋土木が本件企業体からの昭和六三年一二月三一日付請求書による請負代金について請求額(八五〇万二〇〇〇円)より五五〇〇円多い八五〇万七五〇〇円を支払っていることを指摘する。しかしながら、川﨑証人は、同月二〇日の二、三日後に右請求書を自分が直接受け取ったと証言しているわけではなく、また、本件工事の終了時期については出勤簿の記載などを根拠として挙げながら昭和六三年中である旨明確に供述しているのであるから、請求金額以上の請負代金を支払った理由について明確な証言をしてはいないことから直ちにその証言の信用性を否定すべきではない。

所論は、また、平山建設の高橋土木に対する本件工事の請負代金請求が、検察官作成の捜査報告書(甲三五)添付の「稼働表」記載の工事量を四三立方メートル超える一万五二七五立方メートルを基礎に算出されている点をとらえ、稼働表に記載のない工事は平成元年に施行されたものとしか考えられないから、右稼働表を根拠に本件工事が昭和六三年一二月中に終了したという平山証人の原審証言は信用できないと主張している。しかしながら、平山証人は、原審において、右の請求自体が計算ミスであった可能性があるとし、本件工事が平成元年にまでずれ込むことを見越して工事代金の請求をしたことはない旨明確に供述しているのであるから、所論指摘の工事量に誤差があるからといって本件工事が翌年まで続いたことにはならない。

所論は、さらに、被告会社の鈴木社長が、検察官の取調べを受けた際、本件工事の売上げが昭和六三年一二月期の収益となることを認めたのは、収益の計上時期についての法的知識がないまま検察官に迎合したためであるから、この供述をもって本件工事が同年一二月中に終了したとは認められないと主張している。しかしながら、右の供述は、本件工事の終了時期という事実に関するものであって、格別法的知識を要するものではないから、右の主張は失当である。

その他記録を検討しても、本件工事が平成元年にわたったと認めるべき事情は存在しない。論旨は理由がない。

二  法令適用の誤りの主張について

論旨は、要するに、仮に本件工事が昭和六三年一二月中に終了していたとしても、本件企業体の本件工事に係る収支計算が終了したのは平成元年になってからであるから、被告会社の収益は平成元年一二月期に計上すべきであり、この点で原判決には法令適用の誤りがあるというのである。

そこで、検討するに、法人税法における収益算入の時期は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」により、収益が発生した時期と解せられる(法人税法二二条四項参照)。もっとも、基本通達一四-一-一は、「法人が組合員となっている組合の利益金額又は損失金額のうち組合契約又は民法六七四条の規定により利益の分配を受けるべき金額又は損失の負担をすべき金額は、たとえ現実に利益の分配を受け又は損失の負担をしていない場合であっても、当該組合の計算期間の終了の日の属する当該法人の事業年度の益金の額又は損金の額に算入する」と定めているが、この規定は、法人を構成員とする組合事業による損益の計算期間と各組合員たる法人の事業年度とがくい違う場合について、計算の便宜を考慮し、組合の計算期間の終了の日の属する事業年度の益金又は損金の額に算入することとしたものである。

これを本件についてみると、被告会社と平山建設は、それぞれ独立して工事を行い、工事代金の分配額は作業日報により確定される両社の工事量の比率に応じて決めることとして、順次両社分の工事代金の請求をし、昭和六三年一二月三一日までにはすべての工事代金の請求を終えている。このことにかんがみると、本件企業体の最終の計算期間は、本件工事が終了した昭和六三年一二月末であったと認めるのが相当であり、したがって、被告会社が得た本件工事代金は、同社の事業年度である昭和六三年一二月の収益に計上されるべきであることが明らかである。

以上によれば、原判決が、被告会社が本件工事により本件企業体から分配を受けた収益を昭和六三年一二月期の収益と認定したのは正当であって、所論指摘の法令適用の誤りは存在しない。論旨は理由がない。

三  結論

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香城敏麿 裁判官 中野久利 裁判官 佐藤公美)

控訴趣意書

被告人 株式会社大興商会

右の者に対する法人税法違反被告事件について、控訴の趣意は左記のとおりである。

平成七年七月七日

弁護人 佐藤義行

同 後藤正幸

東京高等裁判所第一部 御中

第一 事実の誤認

被告人会社と平山建設株式会社のジョイントベンチャー(以下「大興平山JV」という)が、株式会社高橋土木から受注した目黒ビル共同作業所内の残土処分工事(以下「本件工事」という)の終了時間について

一 原判決は、被告人川崎俊彦及び承認平山恒雄の各証言及び検察官作成の捜査報告書(甲三三、甲三五)を根拠に、本件工事の終了時期を、昭和六三年一二月であるとする。

しかし、右証人両名は、その証言から明らかなように、本件工事の終了時期について明確な記憶があるわけではなく、結局のところ推測に基づいて本件工事の終了時期を昭和六三年一二月中であると思うと、証言しているに過ぎない。

しかしながら、右推測にも次に述べるとおり矛盾がある。

二 証人川崎俊彦の証言及び甲三三について

1 証人川崎俊彦は、大興平山JVが、高橋土木に対して発行した請求書のうち昭和六三年一二月三一日付けのもの(甲二七、二〇丁)は、昭和六三年一二月二〇日ころに工事が終了して二、三日後に、平山建設代表取締役平山恒雄が、高橋土木に持参した旨証言している。

他方、甲三三に添付された出勤簿によれば、証人川崎俊彦は、昭和六三年一二月二〇日から同年一二月三〇日まで会社を休んでおり、昭和六三年一二月二二日、三日ころに、請求書を受領しているはずはない。

原判決は、かかる矛盾を看過し、出勤簿が強い証明力を有しているとして事実認定をしており、その違法は明らかである。

4 また、高橋土木は、平成元年二月一〇日に、大興平山JVに対して、金八、五〇七、五〇〇円を支払ったとして、同金額を外注加工費として計上しているが(甲二七、二丁支払内訳書、同九丁総勘定元帳伝票No.180ないし182、同証一六丁振替伝票)、この支払に対応する大興平山JVの昭和六三年一二月三一日付請求書記載の請求金額は、八、五〇二、〇〇〇円である。従って、高橋土木は、請求金額より五、五〇〇円多く請負代金を支払ったことになる。しかして、その差額は僅かであるが、請求金額より多く請負代金を支払うことは有り得ないことである。

即ち、かかる金額の差額が生じるのは、被告人が供述するように、未だ終了していない工事について見込みで請求を行い、その見込みと現実の処分量或いは高橋土木の機械の使用料に、開差が生じたためであると考えるのが合理的である。

従って、右請求金額と支払金額との開差も、右昭和六三年一二月三一日付請求書による請求が、見込みの工事分も含んで行われていたことの証左である。

三 証人平山恒雄の証言及び甲三五について

1 原判決は、甲三五添付の稼働表が強い証明力を有しているとして、本件工事の終了時期が、昭和六三年中であると認定している。

しかし、右稼働表及び同証人の証言によれば、高橋土木が自ら処分した残土を除く平山建設の残土処分量は、左記表のとおり合計一五、二三二立法メートルとなる。

<省略>

これに対して、平山建設は、同社が行った本件工事の残土処分量は、一五、二七五立法メートルであるとして、大興平山JVから配当金を受領している(平成四年五月二一日付質問てん末書一四丁計算書(以下「計算書」という。)参照)。

しかして、この数字の食違いにつき、同証人は、当公判廷において、計算間違いであろうと証言しているが、右配当金の受領に関しては、大興平山JV間で、微細に渡り算定を行っており、両社間で間違いのないように慎重に計算がなされたであろうことは、計算書からあきらかである。また、計算書によれば被告人会社と平山建設の残土処分量は、合計で三〇、八三四立法メートルとなり、これは大興平山JVが、高橋土木に請求した際に発行した請求書記載の残土処分量に一致するのであるから、計算書記載の平山建設の残土処分量であることは明らかである。

即ち、平山建設が、本件工事においておこなった残土の処分につき、平山建設が配当の基礎とした一五、二七五立法メートルと稼働表記載の処分量も差四三立法メートルは、右稼働表記載の時期以外の時期に行われた工事によると考える外はないのである。

しかして、工事の治期が、昭和六三年八月以前に遡ることはないのであるから、右四三立法メートルの工事は、平成元年に行なわれたと考える外はない。

よって、右稼働表を根拠に、工事の終了時期が昭和六三年中であるとした原判決は、事実の認定を誤ったものである。

2 また、平成四年五月二一日付質問てん末書一四丁の計算書に記載された常用分とは、大興平山JVが、本件工事に使用した機械の使用料であるが、右計算書の欄外には「平山常用分184450、1月」との記載がある。

右記載の意味は、平山建設が一月に常用分として機械を使用しその対価が一八四、五〇一円であると解するのが合理的であり、右記載は、本件工事が、平成元年一月に行われたことの証左となるものである。

これに対して、同証人の証言は不明瞭であり、右理解以外の合理的理解が困難なことを示している。

原判決は、かかる点も看過して事実を認定しており、その認定は証拠の評価を誤ったものである。

三 なお、原判決は、仮に平成元年にも工事が行われていたとすれば、右出勤簿及び稼働表にその旨の記載がないことの説明がつかないことになるというが、出勤簿に目黒作業所の記載がない一一月八日、一一日、一二日にも稼働表には工事が行われた記録があり、出勤簿をもって工事が行われたことの証拠とすることはできない。また、そもそも稼働表からは、平成元年一月に工事が行われたか否かは不明であり、しかも右のとおり稼働表記載の残土処分量は計算書記載の残土処分量より四三立法メートル少なく、稼働表記載以外の日に工事が行なわれた可能性を示唆しており、原判決は証拠の評価を誤ったものである。

四 さらに、原判決は、被告人が検察官調書において、本件工事の売上が昭和六三年一二月期の収益となることを前提とした詳細な供述を行なっているとして、本件工事の終了時期が昭和六三年中であったとする。

しかし、被告人は、請負工事の収益計算時期の判断について法的知識を有している者ではなく、かかる者が収益計上時期が昭和六三年中であるとして取り調べを行なった検察官に迎合して法的判断についての供述を行なったとしても、それをもって事実認定の理由とすることはできない。

むしろ、供述が詳細であるにもかかわらず、収益上時期を判断するについて最も必要な工事の終了時期について、被告人が何ら供述を行なっていないことは不自然であり、これは捜査段階から被告人が一貫して工事の終了時期は平成元年であった旨供述していたのに、検察官があえてその供述を録取しなかったものと解すべきである。

第二 法令適用の誤り

仮に、本件工事が、昭和六三年一二月中に終了していたとしても、本件工事にかかる被告人会社の収益は、被告人会社の平成元年一二月期に計上されなければならず、本件工事の売上高四二、三七一、七三四円は、逋脱を構成するものではない。

以上、その理由を述べる。

一 高橋土木の発注にかかる本件工事は、大興平山JVにおいて受注したものであり、本件工事に関して被告人会社が受領した金員は、大興平山JVから受けた配当金である。この事実は、当公判廷における被告人質問の結果、川崎証言、平山証言、被告人の検察官に対する平成五年九月二七日付供述調書及び平成四年五月二一日付質問てん末書から明らかである。

二 そして、大興平山JVの計算の終了は、平成元年であり、これは、当公判廷における被告人の供述のみならず、以下の事実により明らかである。

1 証人川崎俊彦が、当公判廷において、大興平山JVに対する高橋土木の請負代金は、大興平山JVが使用した高橋土木の機械・ダンプの使用料及び高橋土木が交付した捨券の代金が差し引かれて支払われている旨証言し、かつ右差し引かれる金額の明細書は、平成元年一月中ころ高橋土木より大興平山JVに交付してその確認を得た旨証言しており、右川崎証言によると、大興平山JV収益を正確に算定することは、平成元年になってからしかできなかったことが明らかであること

2 証人平山恒雄も、当公判廷において、平成四年五月二一日付質問てん末書一四丁に資料として添付された計算書が、平山建設が大興平山JVの計算を行なうため作成したものである旨証言し、かつその作成時期を平成元年であると証言していること

三 しかして、ジョイントベンチャーの法的性格は、民法上の組合と解するのが通説(建設共同企業体研究会編著「共同企業体の解説」財団法人建設業振興基金発行六九頁)・判例(大阪地裁昭和五九年六月二九日判決判時一一四二号八〇頁)である。

そして、かかる組合から配当として受ける利益を、当該組合の計算結了前に決算期が到来する組合の構成員の当該事業年度の収益として計上しなければならないとするならば、組合は構成員の決算期が到来するたびにその時点での損益を計算しなければならないことになり、本件のように法人を構成員とする組合においては、不可能を強いることになる。

従って、当該事業年度の収益の額を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するものとする法人税法二二条四項に基づき、法人を構成員とする組合から分配を受ける利益についての構成員たる法人の収益の計上時期については、当該組合の計算期間の終了する日の属する構成員たる法人の事業年度の収益とすることが認めなければならない。

四 また、この点は、行政解釈においても認められており、法人税基本通達一四-一-一は「法人が組合員となっている組合の利益金額又は損失金額のうち組合契約又は民法六七四条(損益分配の割合)の規定により利益の分配を受ける金額又は損失の負担をすべき金額は、たとえ現実に利益の分配を受け又は損失の負担をしていない場合であっても、当該組合の計算期間の終了の日の属する当該法人の事業年度の益金の額又は損金の額に算入する。」と規定して、たとえ組合の構成員たる法人が、現実に利益の配分を受けている場合であっても、右金額を含めた組合から分配を受ける利益の額を、当該組合の計算期間の終了の日の属する構成員たる法人の事業年度の益金の額とすることが認められている。

なお、ジョイントベンチャーの構成員に対して、右法人税基本通達一四-一-一が適用されることも、一般に認められており(前掲建設共同企業体研究会編著「共同企業体の解説」、平野嘉秋「パートナーショップ税制の法的構造に関する一考察-日米比較を中心として-」税務大学校論叢二三巻二〇八頁)、ジョイントベンチャーの構成員において、かかる通達に従い申告することは、通達が行政解釈に過ぎないとしても公正基準(法人税法二二条四項)に従っているものと解する外はない。

五 しかして、大興平山JVの計算の終了の日は、右二記載のとおり平成元年であることは、関係各証拠に照らして明らかであるから、被告人会社の本件工事にかかる収益の計算時期は、大興平山JVから実際に利益の一部の分配を受けていたか否かにかかわらず、右計算終了の日を含む事業年度に計上しなければならにことになり、右利益の分配金を平成元年一二月期の収益として計上した被告人会社は申告は、何ら逋脱を構成するものではない。

六 これに対して、原判決は、1.本件企業体は本件工事だけについて結成された短命的な企業体であること、2.被告会社と平山建設はそれぞれ独立して本件工事を行い、工事代金の分配額は作業日報により確定される各社の工事量に応じて決められていたこと、3.被告会社が本件工事代金から得る最終的な分配額は、昭和六三年一二月期の法定申告期限以前の平成元年二月中旬までには確定していたことが認められることを理由に、本件には法人税基本通達一四-一-一は適用されないという。

しかし、そもそも建設工事におけるジョイント・ベンチャーは当該工事の完成のみを目的とする組合であり、右四で述べたとおり、ジョイント・ベンチャーにも法人税基本通達一四-一-一が適用される取扱いがなされていることからすれば、原判決のいう本件企業体は本件工事だけについて結成された共同企業体であることは、右通達の適用を否定する理由とはならない。また、組合が短期間で解散されるとしても、その間に組合の構成員の事業年度が終了する場合は、未だ存続する組合の計算を行なわなければならないという状況は異ならないのであるから、右通達の適用を否定する理由とはならない。かえって、短期で終了する組合においては、組合を利用して長期に課税を繰延べる處はないのであるから、右通達の適用が認められなければならない。

また、確かに大興・平山JVにおいては、それぞれがJVから受ける分配額は、それぞれの残土処分量に応じて決せられることとなっていたが、残土の処分量は注文主たる高橋土木も交えて、三者間で協議・確認のうえ決定されることになっており、また大興・平山JVに要した経費についても、早くも平成元年一月中旬以降に、高橋土木から大興・平山JVに対して、機械使用料等の請求があるまではその額が不明であり、それ故昭和六三年中に、被告人会社において、大興・平山JVから受ける分配金の額は確定していなかったのである。

これに対して、原判決は、最終的な分配額は、昭和六三年一二月期の法定申告期限以前の平成元年二月中旬までには確定していたとして、右分配金を昭和六三年中の収益に計上すべきであるとするが、法人税法における収益の確定とは、当該事業年度の終了時までに収益が確定することをいうのであり、原判決は、法人税法が原則とする期間損益計算を無視するもので、到底容認することはできない。

七 以上の次第で原判決には、被告人会社の高橋土木に対する収益の計上時期を誤った違法があるので、取り消さなければならない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例